モストグラフのより詳しい理解のために
モストグラフは、2012年度より保険診療が認められた検査で、呼吸機能検査項目の中に新設された広域周波オシレーション法の一つです。
このうち、モストグラフは患者さまへの侵襲も少なく、喘息の診断や治療効果判定、治療管理にも有用と期待されてきましたが、10年近くでその効果や判定評価が確立されてきました。
強制オシレーション法(forced oscillation technique:FOT)は、安静換気時に空気の圧力振動(オシレーション)を口元から加え、肺の末梢から戻ってくる気流と圧から「呼吸インピーダンス(respiratory system impedance:Zrs)(一種の抵抗)」を測定する呼吸機能検査です。スパイロメトリーが安静換気に引き続いて測定される肺活量や一秒量を評価するのに対して、モストグラフは安静換気そのものを評価できる点が異なります。
開発の歴史は古く1950年代から研究されており、古典的には単周波数のオシレーションが用いられてきましたが、現在の市販機器〔モストグラフとインパルス・オシロメトリー(impulse oscillometry:IOS)〕は広域周波を用いています。Zrsは、粘性抵抗に相当する呼吸抵抗(respiratory system resistance:Rrs)と弾性または慣性に相当する呼吸リアクタンス(respiratory system reactance:Xrs)に分けられ、(Zrs)²=(Rrs)²+(Xrs)²の関係にあります。Rrsは気道抵抗や肺組織抵抗、胸郭抵抗も含んでいますが、実用的には「気道径」を反映すると理解されます。Xrsは「肺の硬さ」を反映すると言われますが、「空気の入りにくさ」(肺実質または気道に異常がある)と理解されるとよいでしょう。
モストグラフは、測定値がカラー3D画像で表される点が最大の利点です。
一言で言えば、Rrsは、健常人では緑色、喘息では黄色から橙色となります。
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)ではXrsが大きく深いマイナスの値をとることが知られています。また、吸気・呼気相の平均値だけでなく、吸気相、呼気相、その差の値がデフォルトとして表示されるのも特徴です。
喘息は、スパイロメトリーの一秒量のみで診断できないのと同様に、モストグラフだけで診断することはできません。しかし、前述のカラー3D画像でおおよその予測は可能です。
従って、喘息の診断には呼気一酸化窒素検査(NOブレス)は不可欠です。
また、喘息の治療効果の判定や気道可逆性試験で、気道径を反映する一秒量と最も連動するのは5HzにおけるRrs(R5)です。
このR5を検出できることがモストグラフの唯一最大の利点と言っても過言ではありません。
R5は、未治療の喘息患者に〔吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid:ICS)/長時間作用性β2刺激薬(long acting β2 agonist:LABA)〕治療を行った場合の一秒量の改善(10%以上)状況を予測する最も有用な検査指標なのです。
また、可逆性試験では、一秒量の変化量が少ないときでもR5は多く変化し、可逆性の指標ともなりえます。さらに、R5はモストグラフ法による気道過敏性試験の陽性結果を予測することができた指標でもあります。このように、喘息におけるFOTで最も有用な指標はR5であると考えられます。
FOTは、強制呼出が必要でない点で患者への侵襲が少なく、スパイロメトリーがうまくできない小児や老人に有用です。ただ、スパイロメトリーの代用ではなく、相補的に用いるべきです。
そして、喘息以外、全ての咳の正体を知ることに有用な検査は呼気一酸化窒素検査(NOブレス)であることは揺るぎのない事実です。
初めての咳でも、実は進行した喘息であることがあります。
そのまま数年放置して階段の一歩で一休みをするほど、取り返しのつかない呼吸機能とならないためにも、NOブレス・モストグラフ・スパイロメトリーを受けられることを是非お薦めします。