アレルギー根治治療(減感作療法 注射と舌下)
アレルギー疾患は亡国病!!
厚生労働省は、今や国民病となったアレルギー疾患が国民の生活のみならず、その症状および内服薬のリスク・副作用が国全体の生産性の停滞から国力の低下につながるとの危機感から、平成26年、アレルギー疾患対策基本法(平成二十六年六月二十七日法律第九十八号)を制定しました。
「アレルギー疾患」とは、気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーその他アレルゲンに起因する免疫反応による人の生体に有害な局所的又は全身的反応に係る疾患をいいます。
当院では、これらのアレルギー疾患全般を『アレルギー免疫疾患』という概念で内服治療・吸入・外用治療に始まり、根治治療に至るまで統合的に診療しています。
当院では、アレルギー疾患に対して従来の内服治療や外用療法で効果が思わしくない方、眠気やだるさなどの副反応でお困りの方には、『減感作療法(抗原特異的免疫療法)』として、皮下注射免疫療法(SCIT、subcutaneous immunotherapy)や舌下免疫療法(SLIT,Sublingual immunotherapy)をおすすめしています。
減感作療法とは症状を引き起こす原因物質(ハウスダスト、スギ等)を低濃度から少量ずつ注射または舌下で投与していくことにより、患者さんご自身の抵抗力を強くして(免疫寛容の獲得)アレルギー症状を出にくくする治療法です。
この治療方法は、皮下・舌下を問わず、ダニやスギなどの天然物から抽出したアレルゲンエキスを体内に取り込むもので、決して合成医薬品を服用するわけではありません。
減感作療法は花粉症だけでなく他のアレルギー疾患、特に気管支喘息、アトピー性皮膚炎、通年性アレルギー性鼻炎にも適応があり、健康保険が適応されます。
花粉症の治療には、薬物療法、免疫療法、手術療法(クリック)があります。
花粉症は薬による治療が中心ですが、いずれも対症療法のため、一時的に症状がなくなっても花粉が飛散する時期になると再び治療が必要になります。そこで、花粉症根本治療に注目が集まっています。
根本(根治)療法は、あまり聞きなれない言葉ですが、たとえば風邪とインフルエンザを比較してみましょう。
実は風邪を治療する治療薬は未だなく、鼻水や喉の痛みなど各症状を抑えているだけで、これを「対症療法」といいます。それに対してインフルエンザは、抗ウイルス薬でインフルエンザそのものの増殖を抑えるので、「根本(根治)療法」といいます。
同様に、花粉症のくしゃみ・鼻水等の症状を内服薬や点鼻薬などで一時的にその症状を抑える治療法は、対症療法であるのに対し、それに対し、減感作療法は、アレルゲンエキスを体内に摂りこむことで、アレルギー反応そのものを抑え込んでいく「根本(根治)療法」ということになります。当院では、アレルギー科を設け以前より「花粉症の根治療法」である「減感作免疫注射療法」を行って参りました。
同様に、ぜん息やアトピー性皮膚炎も、その実態はダニやハウスダストに対するアレルギー反応であることが多いため、ダニやハウスダストに対する減感作療法で、劇的に改善することがあります。
当院では、設立時より日本アレルギー学会会長がご診療に携わっていた経緯より、常に最新・最良の治療を行ってきました。特に「減感作(免疫注射)療法(スギおよびハウスダストのエキス少量持続注入)」を約20年前より行い、当院よりその治療法を学ばれた先生方が神奈川県を中心にこの治療法を実施されています。
治療効果の確実性・有効性と安全性の高さから花粉症・喘息・アトピー性皮膚炎の「根本治療」としてWHO(世界保健機関)が率先して啓蒙活動をおこなうなど、世界的に評価されています。
ぜん息、アトピー性皮膚炎、花粉症等は、下記の専門ページをご覧ください。
特に、花粉症に関しては、「アレルギー薬お役立ち事典」にて、主として内服を中心に点眼・点鼻薬など治療方法について詳述しておりますので、ご覧ください。
花粉症 花粉症には最新の初期療法を!
ぜん息 正しく吸入してますか?
アトピー性皮膚炎 塗ってるだけでは治らない!
食物アレルギー
アレルギー検査
減感作(げんかんさ)療法 アレルギーに対する、唯一の根本治療
花粉症や気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などを総称してアレルギー性疾患と呼びます。
アレルギーは、通常は無害な物質に対する過剰な反応を生じさせる免疫系機能不全の1病態です。
これらの病気の発症メカニズムに共通していることは、アレルゲン(病気の原因となっている抗原:ダニ、スギなど)と呼ばれるアレルギーを引き起こす物質の関与です。
内服・外用治療は対症療法に過ぎません。
通常アレルギー疾患の治療にあたっては薬物治療が行われます。局所的あるいは全身的に、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ステロイドホルモン剤を花粉症、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎の患者さんへ投与し、気管支喘息の患者さんにはさらに気管支拡張剤や吸入ステロイド剤を投与して治療をしています。このような治療方法は比較的容易で、ある程度の効果が期待できますから「対症療法」として確立しています。完治は望まないが、とりあえず症状を和らげるには良い治療方法です。
しかし遺伝性疾患でもあるアレルギー性疾患は、理論的にこれらの薬剤のみでは完治しません。
WHO(世界保健機関)は、「アレルギー疾患に対する原因根治療法」は、「減感作療法」のみであると表明しています。
1998年、WHOはアレルギー治療に対する意見書において、減感作療法の呼称を「アレルゲン免疫療法」に、治療用アレルゲンの呼称を「アレルゲンワクチン」とすることを提唱しました。
即ち、世界的には減感作療法はアレルギー治療の根本治療としてワクチンと同じ位置づけとなっているのです。
日本における販売名は、ワクチンではなく「標準化アレルゲンエキス」となっています。
当院のアレルギー専門外来で治療を受けていただくときにはこの標準化アレルゲンエキスをごく少量皮内に注射して皮内反応を調べるとともに、特異的IgE抗体検査(クリック)を行います。このようにしてアレルゲンが決定したことを確認した上で、アレルゲン特異的減感作療法で治療を開始します。
減感作療法 皮下免疫療法と舌下免疫療法
減感作療法―皮下免疫療法(SCIT subcutaneous immunotherapy)
減感作療法のしくみ
アレルギー性鼻炎では、まず体内に入ってきた抗原(ハウスダストや、花粉)が、免疫細胞に認識され、それぞれの抗原に対する抗体が作られます。(この状態を感作された状態といいます。)こうしてできた抗体を特異的IgE抗体といいます。特異的という意味は、ハウスダストならハウスダストとだけ、スギ花粉ならスギ花粉とだけしか反応しないという具合に<反応する相手が決まっている>抗体という意味です。
特異的IgE抗体は、マスト細胞という細胞の上に乗っています。体外から侵入してきた抗原がこの特異的IgE抗体にくっつくことにより、アレルギー反応が始まるのです。これを抗原抗体反応といいます。下図をみて下さい。抗原が特異的IgE抗体と反応すると、異物が入ってきたというメッセージがマスト細胞に伝わります。するとマスト細胞は破裂して、多くの有害な化学伝達物質(ロイコトリエン、ヒスタミンなど)を放出します。この化学伝達物質が、鼻粘膜を刺激することによって、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のようなアレルギー性鼻炎の症状を発現します。
ところが、減感作療法で少しずつ抗原を注射していくと、体内に特異的IgE抗体ではなく、IgG抗体という別の抗体(遮断抗体)が作られます。このIgG抗体は、抗原が体内に入ってきた時に、抗原より先に特異的IgE抗体にくっつきます。つまりIgG抗体は、抗原と特異的IgE抗体との結合を妨げる事により、アレルギー反応をおこさない(遮断抗体)ように働いてくれるのです。
このように減感作療法は、内服薬などの対症療法のように薬剤がアレルギー反応を押さえ込むのとは違い、免疫が過剰反応を起こしているシステムそのものに抑制をかけ、不利益なアレルギー反応が起こらない状態を構築するという、根本的なアレルギーの治療法です。
通年性アレルギー性鼻炎と、減感作療法の適応
花粉がアレルギーの原因となるアレルギー性鼻炎を花粉症といいます。それに対して、ハウスダストやダニが原因となり、1年中症状が見られるアレルギー性鼻炎を、通年性アレルギー性鼻炎といいます。
軽症な花粉症であれば、症状が出現する季節だけの治療で十分です。しかし、通年性アレルギー性鼻炎のように季節に関係なく、1年中症状が見られる場合には、長期間治療が必要となり、せっせと病院通いを続ける割にはあまり効果がなく、リスク・副作用の強い薬を長々と服用するなど、何かと負担が多いように思います。
また、通年性アレルギー性鼻炎の方では、頭痛や集中力がなくなるような症状が見られるにもかかわらず、悪い状態になれてしまったため、周囲の人も本人も鼻炎が原因であることに気づかないでいることもよく見られます。
通年性アレルギー性鼻炎の自然治癒は、あまり期待できないため、減感作療法が、唯一最善の治療です。減感作療法は、続けて行えば十分効果が期待できる治療法です。最近は内服薬や、点鼻薬にも良い製品がたくさんでてきていますが、一般的薬物治療では、効果のみられない場合や、1年中症状が見られる場合などには、試みるべき治療と思います。
適応(対象疾患)
日本アレルギー学会および日本アレルギー学会アレルゲンと免疫療法専門部会の見解では
現在一般的な疾患:花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、ハチ毒アレルギー
研究中:食物アレルギー
適応拡大の可能性があるもの:食物アレルギーも含め一部のアトピー性皮膚炎、蕁麻疹、薬剤アレルギーなどとなっています。
減感作療法は花粉症だけでなく他のアレルギー疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、ハチアレルギーなど)の方にも適応があり、健康保険の適応になっています。
減感作療法の実際
①スギ減感作療法
注射によるスギ皮下免疫療法は、スギとヒノキに効果がありますが、スギ舌下免疫療法はヒノキには効果がありません。
0.2JAU 0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml---0.3ml---0.5ml
2JAU 0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml---0.3ml---0.5ml
20JAU 0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml---0.3ml---0.5ml
200JAU 0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml と上げていき、維持量(目標)は、200JAU 0.2ml です。
200JAU 0.2ml で、なお症状が出現する場合には、200JAU 0.3ml---2000JAU 0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml と上げていき、維持量(最大)は、2000JAU 0.2ml です。
ただし、200JAU 0.2ml から増量する場合、それぞれの濃度で最低3回は注射します。
200JAU 0.5ml は疼痛を伴うため、おすすめしません。2000JAU 0.05ml を2~3回注射します。
尚、投与間隔が相当期間空いた場合や前回の副反応の状況により、同じ濃度を複数回続ける場合があります。
②ハウスダスト減感作療法
ハウスダスト皮下免疫療法は、ハウスダスト・ダニのほか、イヌ・ネコ・数種類のカビに効果がありますが、ダニ舌下療法はダニのみにしか効果がありません。
1:1000 0.02ml---0.03ml---0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml---0.3ml---0.4ml---0.5ml
1:100 0.02ml---0.03ml. ---0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml---0.3ml---0.4ml ---0.5mlと上げていき、維持量(目標)は、1:100 0.2ml です。
また、1:100 0.2ml で、なお症状が出現する場合には、
1:100 0.3ml---0.4ml---0.5ml↓
1:10 0.02ml---0.03ml---0.05ml---0.07ml---0.1ml---0.15ml---0.2ml---0.3ml---0.4ml---0.5ml と上げていき、維持量(最大)は、1:10 0.5ml です。
スギの場合と同様、同じ濃度を複数回続ける場合があります。
減感作療法の注意点
①治療の効果が現れるまで、かなりの時間がかかることです。
治療を開始して十分な効果の発現までに、数か月~1年程度かかります。
その間、概ね月2回の皮下注射を続けなければ、IgG抗体は十分できません。
ただし、ハウスダストによるアレルギー性鼻炎であれば、6ヶ月くらい続けると効果が出てきます。花粉症の場合は、ハウスダストほど早くは効果が期待できませんので、現在の症状を完全に治すのではなく、次のシーズン以後の症状を少しずつ軽くしていくための治療と考えた方が良いでしょう。
②IgG抗体のできかたは、個人差がありますし、有効性も実際に治療してみないと判りません。また、抗原の種類によっても効果には差があり、有効率は、ハウスダストで80~90%、花粉症では70%くらいです。
ただ、完全に効果が出ない場合でも症状はかなり軽減され、内服薬の減量は期待できます。
③減感作療法は、少量とはいえ、体内に抗原を注射するわけですから、場合によっては、アレルギー反応をおこすこともあります。(ごく稀ではありますが、ショック症状を呈することもあると言われています。当院では1例もありませんが。)体調の悪いときは注射を延期したり、注射後15分位安静にしてから異常がないことをご確認の上お帰り頂ければよいでしょう。
減感作療法 Q&A
Q1.減感作療法とは?
A1.アレルギーの原因物質を精製した治療用エキスを、濃度の薄いものから濃いものへ増量して皮下注射をしてゆくことにより過敏性を軽減してゆく治療法です。
この原理は、大量の注射抗原エキスは、アレルギー疾患の過剰反応が起こりやすいTH2サイトカインの過剰な反応を抑制し、TH1とTh2のバランスを直すこと、遮断抗体という物質が増加すること、また抑制性T-cellの誘導および特異抗原によるアレルギー誘導などにより免疫システムを変化させ、不利益なアレルギー反応が過剰に起こるのを抑えてゆく治療法です。
Q2.どのくらいの回数・期間するのですか?
A2.一般に、週1-2回の割合で、前腕部に注射し、維持量まで達したら1ヶ月に1回に間隔を延長し維持療法に移行し(スギ花粉症の場合、来シーズンに間に合うよう)、治療を続けます。その後は個人差がありますが、血液検査により免疫反応の状態をチェックしながら、より治療効果をあげるためさらに、治療を継続してゆきます。
このため、治療期間は少なくとも1‐2年は治療が必要と判断されます。
Q3.注射は何種類することがあるのですか?
A3.アレルギーの原因によりますが、ハウスダスト・ダニ・スギ・カモガヤ・ブタクサに対しての5種類です。
注射量:0.025mlより0.25mlまで6段階で増量
使用エキス濃度:
①ハウスダスト:10万倍・1万倍・1000倍・100倍・10倍
②ブタクサ・カモガヤ:100万・10万倍・1万倍・1000倍
③スギ:0.02U、0.2U、2U、20U、200U(治療用標準エキス)
(例:スギの場合5段階の濃度を、6回ごとの注射量で増加すると、維持量に達するのに、5x6=30回の計算になりますが、維持量に近づくと注射が腫れやすいため投与量を調節します。)
Q4.費用はどのくらいでしょうか?また毎シーズン治療薬を使用するのとどちらが良いのでしょうか?
A4.①1回の治療費は、保健適応の30%負担で、約400—600円(1種類)から約800-1,000円(3種類)です。また、注射する薬液量により少しずつ異なります。
毎シーズンの治療費と、減感作療法を実施した場合の経済的比較をした計算がありますが、減感作を施行することにより治療薬は減量また不要になることを考慮すると、長期的には、減感作療法の方が効果的と分析されています。
Q5.リスク・副作用はありますか?
A5.治療エキスが体に及ぼすリスク・副作用はありません。しかし、注射の量が増加すると注射部位が腫れることがあります。
そのため投与量を、注射の腫れ(発赤)が、注射約15分後(即時相)で、直径20mmを目安に、また約6-8時間後(遅発相)の腫れ(腫脹)の状態を観察し、注射量を調節します。
Q6.妊娠・授乳中は出来るのでしょうか?
A6.スギ花粉は、通常の生活において体に入ってくる物質です。したがって、これを治療用に精製したエキスの投与量を調整して注射することにより免疫の過剰反応を抑制します。そのため治療薬のようなリスク・副作用はなく、妊娠、授乳中も継続することが可能です。
Q7.注射で喘息発作が誘発されたり、アトピー皮膚炎が増悪することはありませんか?
A7.注射の反応が強い時、投与量を無理に増加すると喘息が誘発されることはあると言われますが、このようなときは、全身のアレルギー反応が亢進して過敏性が高まっていることにより症状が発現していると判断されます。(当院においては、十分注意した上で無理な増量はせず、全身状態を観察しながら施行しています。)
Q8.治療効果はどのくらいですか?またどのくらい持続するのですか?
A8.維持量まで達すると、治療効果は約85%と判定されています(施設により異なります)。
この数値は、ステロイド点鼻薬・抗アレルギー薬の治療効果が、一般的に約70%程度であることを考慮すると、長期間の通院の回数は必要ですか、治療法として取り入れること考慮してよいと判断できます。また治療の途中でも、対症療法で使用する薬剤が減らせるなどの効果もあります。
治療が維持量まで達し、その後注射をやめても、個人の免疫反応により違いはあると言えますが、治療薬の必要のない状態、発症しにくい状態に誘導が可能と判断できます。
Q9.子供でも出来るのですか?
A9.注射は多少なりとも痛みを伴うため、自分で病態の理解が出来、自分で治療を希望した場合に行います。
当院では、高校生以上の方を診療しています。
注射針は27Gと最も細い針です。
また、注射の痛みは薬剤によりますが、スギとハウスダストはインフルエンザ予防接種よりは痛くはないと言われています。
Q10.新しい治療法(経口減感作)その他はいつ実施の予定なのでしょうか?
A10.経口減感作(舌下)は、すでに平成26年より実施されています。
詳細は、幣院ホームページ「舌下療法(SLIT sublingual immunotherapy)」をご覧ください。
Q11.今後の新しい治療法について教えてください。
A11.
①花粉症緩和米は、治療用薬品として安全性、効果判定をする必要があるため、少なくとも数年以上かかる状況で未定です。
②ペプチド療法も臨床適応のための判定をしていますが、正確には未定と思われます。
抗IgE抗体は、日本で難治性の喘息で認可していますが、花粉症では未定です。
このようにアレルギーの治療は将来さらに進化して、さらなる新しい局面を迎えるものと思われます。
減感作療法の治療効果はハウスダスト(ダニ)で80~90%、スギ花粉でも70%前後の有効性が認められています。また治療を3年以上続けられた患者さまでは、治療後4~5年経過した時点で80~90%の効果の持続が認められています。
特にハウスダスト(ダニ)によるアレルギーに対する減感作免疫注射療法は、有効性・安全性とも高く、1年を通じて明らかに症状のある患者さんには、積極的にお薦めしています。
飲み薬はあくまで一時的に症状を抑えるだけで、根本的な治療ではありません。長期にわたって薬を飲み続けるより、はるかに経済的(健康保険適応)でもあります。
舌下免疫療法(SLIT sublingual immunotherapy)
注射によるスギ皮下免疫療法は、スギとヒノキに効果がありますが、スギ舌下免疫療法はヒノキには効果がありません。
同様に、ハウスダスト皮下免疫療法は、ハウスダストとダニに効果がありますが、ダニ舌下療法はハウスダストには効果がありません。
アレルゲン免疫療法は、100年以上も前から行われている治療法です。主には、アレルゲンを含む治療薬を皮下に注射する「皮下免疫療法」が行われていますが、近年では治療薬を舌の下に投与する「舌下免疫療法」が登場し、自宅で服用できるようになりました。
舌下免疫療法は、2014年にスギ花粉による季節性アレルギー性鼻炎に、2015年にダニによる通年性アレルギー性鼻炎に対して保険適応となりました。
アレルゲン免疫療法はアレルゲンを少量から漸増して体内に摂り入れることで症状の改善に用いる薬剤の減量が期待できる治療法です。
舌下免疫療法の治療開始は6月から12月の間が推奨されておりますが、ハイシーズンを避ければいつからでも開始できます。
効果が出るまでに最低でも2年かかると考えられていましたが、当院の患者様の多くは、翌年から高い効果を実感されているようです。
また、過去の治験(ボランティアによる治療効果や安全性の確認試験)により5年程度の継続治療が必要だと考えられていますが、おなじく当院の患者様から伺うと「治療開始から半年から1~2年間治療を継続することにより、免疫寛容が誘導される」と考えます。
このように、当初舌下免疫療法の効果が得られるまでにはかなりの時間を要するといわれていましたが、実際には意外と早期に実感されているようです。
また、皮下免疫療法(SCIT)と同様、薬物療法が奏功しない重症の方にも改善効果が期待でき、さらに薬物療法でリスク・副作用が現れる方、服用が続かない方にも適しているようです。
服用期間の例
1日1回、少量の治療薬から服用をはじめ、その後決められた一定量を数年間にわたり継続して服用します。
初めての服用は、医療機関で医師の監督のもと行い、2日目からは自宅で服用します。
使用方法の例
治療薬を舌の下に置き、1分間保持したあと、飲み込みます。その後5分間はうがい・飲食を控えます。
※スギ花粉症の場合、スギ花粉が飛んでいない時期も含め、毎日服用します。
舌下後2時間は激しい運動・入浴は避けましょう
期待できる効果
長期にわたり、正しく治療が行われると、アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえる効果が期待できます。
症状が完全におさえられない場合でも、症状を和らげ、アレルギー治療薬の減量が期待できます。
舌下免疫療法は現在、スギ花粉症とダニのアレルギー症状を根本から治すことができる唯一の治療法とされています。しかし、すべての患者さんに効果が期待できるわけではありません。2割の方が完治し、6割の方は症状が改善、2割の方は効果がありませんでした。
スギ花粉単独のアレルギーにはよく効きます
「単独感作(たんどくかんさ)」
スギ・ヒノキ(スギとヒノキは共通のアレルゲンをもち、通常は一緒のアレルゲンと見なします)だけとかダニだけのアレルギー患者さんに対しては非常によく効きます。
これを単独感作といいます。
実は、単独感作の人はほとんどいません。
花粉症を含むアレルギー性鼻炎に罹っている日本人の90%以上が2つ以上のアレルゲンに感作されています。20代以上の患者さんの80%はスギとダニ両方に対して陽性ですし、スギに対して陽性の人は、ハンノキ、ブタクサ、カモガヤに対しても陽性であるケースが多いということが判っています。
花粉症の治療では、スギ・ヒノキ、カモガヤ(イネ科)、ブタクサ(キク科)、カバノキ科が4大アレルゲンとされています。スギ花粉単独ではなく、カビ、ハウスダスト、ペットといった花粉以外や、春のハンノキ(カバノキ科)、初夏のカモガヤ(イネ科)、秋のブタクサ(キク科)など、3つも4つものアレルゲンに感作されている人は大勢おり、それぞれのアレルゲンに感作されている度合い(感作パターン)や症状によって、効き目は違ってきます。
複数のアレルゲンに感作している場合は効果が落ちます。
これらのアレルゲン検査して、アレルゲンとなっているかどうかを見極めなければ正しい治療はできません。
舌下療法の効果を予測するためにも、VIEW39検査を受けられることをお薦めします。
舌下療法適応外のかた
- 妊娠されている方(すなわち最低治療期間が2年間であることを考えると妊娠希望期間は原則不可ということになります。)
- 喘息や気管支喘息の症状が強く出ている方。このようにいったん中断すると初期の少量治療量からやり直しとなります(皮下免疫療法(SCIT)は、重症時の数日を外せば継続可能です)
- 重症の口腔アレルギーの方
- 抜歯後などの口腔内の術後、傷や炎症などがある方
- ステロイドや抗がん剤、β阻害薬使用など特定の薬を使用されている方
リスク・副作用
- 口腔内のかゆみ ・口唇の腫張 ・咽頭刺激感
- 喘息発作 ・消化器症状 ・腹痛 ・嘔吐
これらは治療開始後1か月以内に出現しますが、抗ヒスタミン剤を併用することで軽減します。
特にダニはスギ花粉に比べ治療薬に含まれるアレルゲン量が多いため、より副反応が強く表れやすい傾向がありますので、ダニ舌下免疫療法は、治療開始時点より抗ヒスタミン剤の併用がお薦めです。
症状の出現期間は患者様により異なりますが、9割の方は2~3か月で消失します。
重症リスク・副作用
皮下免疫療法(SCIT)は100万回の注射で1回の重篤な全身反応があり、2,300万回の注射で1回の死亡例が報告されています。
その一方で、舌下免疫療法(SLIT)は1億回の投与で1回のアナフィラキシーの報告がある程度で、死亡例は報告されていません。
舌下免疫療法(SLIT)は、皮下免疫療法(SCIT)や他の薬剤アレルギーと比較して安全といえます。
複数アレルゲン併用療法について
皮下免疫療法(SCIT)は、ダニとスギ花粉など同時に治療することが可能ですが、舌下免疫療法(SLIT)は、1種類のみで実施することとされており、2種類のアレルゲンを併用することの安全性や有効性についてはまだ多くの課題が残されています。
当院では、ダニ・スギ併用療法の場合は、皮下免疫療法(SCIT)をお薦めしていますが、舌下免疫療法での併用療法をご希望される場合は、まず副反応が少なく、効果が実感しやすいスギ花粉SLITから開始、その後ダニSLITの開始をお薦めしています。
また、舌下する場合も、朝夜2回に分けて摂取することをお薦めしています。
ヒスタミン加人免疫グロブリン注射 非特異的根治治療として効果的な新しい治療法
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなど、体がアレルギー反応を起こしているときは、体内で「ヒスタミン」という物質が作られています。
体がアレルギー物質に過剰な反応をしないためには、このヒスタミンに対する抗体をつくることが有効です。このためには「ヒスタミン加人免疫グロブリン」を定期的に皮下注射することがとても有効と言われています。
しかもヒスタミン加人免疫グロブリン注射は、一時的な効果だけでなく減感作療法として恒常的にアレルギー体質を改善していく効果が期待できます。慢性的な花粉症症状でお悩みの方には非常に有効な治療法です。
ヒスタミン加人免疫グロブリン+ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液注射
「ヒスタミン加人免疫グロブリン注射」は、非特異的減感作療法と呼ばれ、特定のアレルギー原因物質に対して感受性を低下させる”特異的減感作療法”とは異なり、様々なアレルギー原因物質に対応し、アレルギー体質を免疫レベルから改善する根本治療薬です。
また、ステロイド注射に比べてリスク・副作用が少ないことが特徴です。このヒスタミン加人免疫グロブリンは昭和42年に発売されて以来、一度も医療事故や感染症を起こしたことがありません。稀に一時的気分不快・血管痛などのリスク・副作用の可能性があります。
花粉症の方は、週に2回・原則6回1クールの注射を行うことを基本とし、1クールで3~4か月間全てのアレルギー反応を大幅に抑えることが期待できます。
なお、通年のアレルギー性鼻炎・喘息・アトピー性皮膚炎の方は、月1~4回の継続注射が有効です。
このヒスタミン加人免疫グロブリンにワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を併用することで相乗効果が得られるため、当院では併用をお薦めしています。
ヒスタミン加人免疫グロブリンの有効性について。
鼻アレルギーに対する臨床有効率は49%です。鼻閉の改善効果は少ないものの、くしゃみ及び鼻汁については明らかな改善が見られています。
抗ヒスタミン剤(抗アレルギー薬)で改善しない蕁麻疹についても、96%で改善が見られ、そのうち約半分の方が注射5回以内、8割の方が10回以内に効果が見られています。
通年性アレルギー性鼻炎及び慢性蕁麻疹についても、6回の投与で80%以上の患者さまで症状が改善されています。
そのため、当院では、まず1クール6回の注射をお薦めしています。
ヒスタミン加人免疫グロブリン注射の注意点(メーカー添付文書その他より)。
主成分のヒト免疫グロブリンは国内献血由来の血液を原料とする、特定生物由来製品(生物製剤)とされますが、その製造過程では極めて高い安全対策が施され、細菌・ウイルスのほか理論上全ての微生物の排除をしています。そのため、1967年に発売以来、ヒスタミン加人免疫グロブリン注射による感染症の報告はありません。
「ヒスタミン加人免疫グロブリン注射」に限らずヒト組織や血液を原料とした製品を使用した方は、献血を控えることが求められています。
生ワクチン(麻疹・風疹・おたふくかぜ・水痘ワクチンなど)の免疫獲得に対しても影響を与える可能性があります。従ってワクチン接種後は最低2週間、ヒスタミン加人免疫グロブリン注射の後、生ワクチンを接種する場合は最低3~4ヶ月空ける必要があります。
また、効果には個人差がありますので、まず1クールの期間、ご様子を見て頂くことをお薦めしています。
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液皮下注射
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液注射は、ワクシニアウイルスという安全なウイルスをウサギの皮膚に注射し、炎症を生じた皮膚組織から抽出分離した非タンパク性の天然活性物質を含有する注射液です。即ち、化学合成物質ではないという安心感があります。この天然抽出物質は下行性疼痛抑制系という神経機構を活性化したり、脳の視床部の血流を増加する事によって疼痛及び痒みを軽減すると言われています。
花粉症によるくしゃみや鼻水、眼球の痒みなどの幅広い症状に効果があります。
また、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液注射は、花粉症などのアレルギーだけではなく、湿疹・蕁麻疹をはじめとする各種の皮膚疾患による掻痒感にも効果があります。
効果には、個人差があり、また体調により効果が一定しないこともあり、補助療法として位置づけられています。