むこうがおかクリニック

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糖尿病 サイレントキラー=忍び寄る殺し屋


糖尿病は、健康診断で正常と糖尿病の間の「予備群」と診断されても症状がなく、糖尿病が発症してもすぐ症状が出ないため、生活の改善を先送りしたり、治療を中断したりする人が多くいます。

メディカルダイエット

エネルギーに必要不可欠なブドウ糖

私たちが日々の生活を活動的に過ごすためにはエネルギーが必要です。このエネルギーを私たちは毎日の食事で得ています。食物から摂取した糖質は胃や腸で分解されブドウ糖となって血液の中を流れています。
人間には血液中にブドウ糖が増えすぎないように一定の濃度に調節する機能があります。
ちなみに健康な人の血中ブドウ糖濃度は約100mg/dlと言われています。
満腹感を得るまで食事をしても血糖値は160mg/dlを超えることはほとんどありません。

糖尿病の診断基準

血液検査の結果が以下の条件にあてはまる場合、糖尿病と診断されます。

糖尿病の診断基準

①、②のいずれかに当てはまる場合、「糖尿病型」と診断され、再検査で同様の結果であった場合に、糖尿病と診断されます。
空腹時血糖値が110mg/dL未満で、75gOGTTが140mg/dL未満であれば、「正常型」と判定されます。
「糖尿病型」でも「正常型」でもない血糖値であった場合、「境界型」いわゆる「糖尿病予備軍」と診断されます。糖尿病に進行しないよう生活習慣の改善など、主治医の指導にしたがいましょう。

空腹時血糖値および75gOGTTによる判定区分

血糖値を一定に保つシステム

糖尿病とは血液中のブドウ糖濃度が慢性的に高い数値になっている状態を言います。血糖値を一定濃度に保つシステムが機能しなくなる原因として考えられるのがインスリンやグルカゴンというホルモンの影響です。

インスリンとは

膵臓
▲クリックすると拡大します

インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓などへの取り込み、血糖を下げる働きを持つ唯一のホルモンです。膵臓のランゲルハンス氏島という部分のβ細胞で作られ、血液によって全身に運ばれます。

一般的に糖尿病は、膵臓で分泌されるインスリンの量が減り、血液中のブドウ糖の濃度を低下させる機能が働かなくなることが最大の原因と考えられています。

なぜインスリン不足になるのでしょうか?

インスリンに異常が発生する原因には3つあります。

1.インスリンの絶対量の不足(インスリン依存状態)
膵臓のランゲルハンス島にあるベータ細胞がインスリンを分泌する能力を失ってしまう場合。

2.インスリンの分泌量の減少(インスリン分泌障害)
通常は食事をすると食事量に見合ったインスリンが分泌されるが、分泌が遅れたり不足したりする場合。

3.インスリンの機能不全(インスリン抵抗性増大)
インスリンが細胞内のブドウ糖濃度を下げるためには、送り込まれた細胞側にインスリン受容体がなければなりません。インスリンと受容体のバランスが崩れたり、受容体がインスリンを細胞内に運ぶ機能に支障がでると結果的に血糖値が高くなってしまいます。
インスリン抵抗性が増大するとそれを補うようにインスリン分泌が過剰になります(高インスリン血症)
インスリン抵抗性が引き起こされる病因として内臓脂肪の存在が最近注目を集めています。
この脂肪細胞から分泌される様々な因子を総称してアデポサイトカインとよび、インスリン抵抗性や直接動脈硬化の促進に関与すると考えられています。

さらに詳しく・・・

このように、インスリン分泌には2種類あります。
まず、食事の際に、糖が消化吸収され血管内に流入してくると、膵臓のB細胞からインスリンが速やかに分泌されます。 これにより血液中の糖は速やかに筋肉、脂肪細胞に取り込まれエネルギーとして燃焼し、または貯蔵に回されます。これをインスリンの追加分泌といいます。この追加分泌が障害されると食後の血糖値が上昇します。
この追加分泌は糖尿病のごく初期から障害されると考えられ、糖尿病はまず食後高血糖から始まると考えられます。一方、インスリンは空腹時にもごく少量が持続的に分泌されておりこれをインスリン基礎分泌といい、主に肝臓でのグリコーゲン分解→ブドウ糖新生による肝臓からのブドウ糖の放出をコントロール(抑制的に)しています。このインスリン基礎分泌が障害されると肝臓からの糖放出が抑えられずに空腹時の(食前)血糖が上昇します。
糖尿病と診断された方の過去の検診のデータをさかのぼって検討したところ、空腹時血糖が上昇する10年も前から空腹時インスリン値が上昇し、インスリンの抵抗性が糖尿病の発症に先行しているのが認められます。
このような例は肥満をともなった糖尿病患者に多く、欧米ではこのタイプの経過をたどる肥満糖尿病が多いですが、最近は日本人でも、従来のインスリン分泌不全優位の比較的やせ型の2型糖尿病から肥満糖尿病が増加しているようです。

糖尿病の検査

HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)

過去1、2か月分の血糖値のあらましを反映します。ヘモグロビンは、赤血球の中にあり、血液中の酸素を運搬する役目を担っています。ヘモグロビンは作られて壊されるまでの間(約120日)に、血液中の糖にさらされて、ヘモグロビンの一部が糖と結合します。血液中の糖の濃度が濃いと、全体のヘモグロビンのうち、糖がくっついたものの割合が高くなります。この、ヘモグロビンのうち糖が結合したものの割合のことをHbA1cといいます。例えば、HbA1c 7%とは、からだの中にあるヘモグロビン全体のうちの7%に糖がくっついているということです。

一時的な食事の影響などで変動してしまう血糖値とは違い 、糖尿病状態の正確なデータが得られます。

HbA1cが分かるとその当時の平均的な血糖値が判ります。

平均血糖値≒(HbA1c-2)×30

血中インスリン(IRI)
血中インスリン濃度を調べる検査 基準値: 1.0μU/ml未満

血糖値とあわせて測ることで、血糖値が高いのにインスリンが出る量が少ないこと(分泌能低下)や、インスリンが高いのに血糖値が下がらないこと(インスリン抵抗性)などがわかり、糖尿病の状態をより深く知ることができます。しかし、自分の膵臓から出たインスリンと、外から注射で補われたインスリンは区別して測ることはできません。

血中Cペプチド(CPR. C peptide immunoreactivity
自己分泌インスリン能を調べる検査 基準値: 0.1ng/ml未満

膵臓のβ細胞ではインスリンの前駆体であるプロインスリンがつくられますが、分泌直前に酵素によって分解されてインスリンとCペプチド(CPR)それぞれ1分子に分かれます。 すなわち、 Cペプチドは、膵臓からインスリンが分泌されるときにインスリンにくっついて出てくるタンパク質で、その後、インスリンからは切り離されて、血液中を通った後に尿に出されます。実際に血糖値を下げるのはインスリンであり、Cペプチドはそのかけらのようなものです。インスリン治療をされていない方の場合は、「Cペプチドの量」 ≒「膵臓からでたインスリンの量」です。しかしインスリン治療を行っている患者さまでは、「インスリン量」=「自分の体でつくられたインスリン(内因性)+注射したインスリン(外因性)」です。そこでCPRを測定すれば、内因性インスリンのみを推定することができます。また、インスリン抗体陽性の患者さまではインスリンが正しく測定できないため、CPRを測定します。したがって、CPRを測定することによって、インスリン分泌能を推測することができます。

HOMA-R(Homeostasis model assessment for insulin resistance

糖負荷試験は2時間かかる検査で、4回の採血が必要ですが、もっと簡単にインスリン分泌能を調べる方法があります。
1回の採血で、空腹時血糖値と空腹時インスリン値を計算する方法でHOMA(ホーマー)法と呼ばれています。

HOMA-R=空腹時インスリン値×空腹時血糖/405 で算出されます。

HOMA-Rの数値が高くなるほど、インスリンが効きにくい(抵抗性が高い)ことになります。
HOMA-Rが、1.67以上のときは、インスリン抵抗性があると判断されます。

C-ペプチドインデックス(CPI)

C-ペプチド(CPR)はインスリンが膵β細胞で合成される際にできる副産物で、インスリンと同程度の割合で血中に分泌されるため、インスリン分泌の指標となります。

CPI=血中CPR÷血糖値×100

CPIが1.2以上の場合、食事・経口薬治療で、0.8未満の場合、インスリン治療で良好な血糖コントロールが得られると報告されています。

症状

尿の量が多くなる(多尿)
糖は尿に出るときに、同時に水分も一緒に出すために尿の量が多くなります。

のどが渇いて、水分をたくさん飲む(口渇、多飲)
多尿のため脱水状態となり、のどが渇き、水分をたくさん飲みたくなります。

体重が減る  糖尿病は太った方に多いというのは、誤解です。
えッ?太るんじゃないの?
皆さん、そう思われるかもしれませんがそうではありません。
糖が尿に出るために、体のたん白質や脂肪を利用してエネルギー源とするため低栄養となるため痩せるのです。
インスリンの過剰分泌でも同様に痩せます。

疲れやすくなる
エネルギー不足と、体重減少により疲れを感じやすくなります。

怖い合併症

糖尿病の合併症

でも、糖尿病の本当の恐ろしさはその合併症である、シメジとエノキです!

糖尿病の怖い合併症 シ・メ・ジ とは?  血管障害 ゆっくり進行
しめじ し・・・神経障害
め・・・網膜症(眼)
じ・・・腎症

「し・め・じ」の「し」は神経障害、「め」は網膜症、「じ」は腎症。
「し」→「め」→「じ」の順番で合併症が起きます。細小血管障害と言われ、細い血管がやられてでてくる合併症で、糖尿病特有の合併症です。「しめじ」は、糖尿病が発症してから徐々に出てきます。

」は神経障害です。糖尿病性神経障害は、足の指先がしびれたり、びりびりしたりします。よく、「手と足からくる」と言われますが、手からくることはまずありません。足の指先や足の裏からきます。初期の症状では足がつることがあります。よく薬局のノボリに「足がつる方は糖尿病にご注意!」とあるのは、このことです。
神経障害が出る人は糖尿病患者の半分程度で、3年後や5年後からこの合併症が出ます。

」は、網膜症です。糖尿病性網膜症の診断には、眼科での精密検査が必要です。健康診断や人間ドックの眼底検査で行う無散瞳型眼底カメラでは眼底の一部しか写りませんので眼科を受診して、瞳を開く散瞳薬を点眼して、検査をする必要があります。網膜症は、毛細血管留という小さい血管のこぶから始まるのですが、眼底出血は眼球の周辺部から始まるので、かなり眼底出血が進まないと視力に影響しません。

糖尿病と診断されたら、最低1年に1回は眼科に行くことが大事です。
日本人の失明原因の第2位は糖尿病で、年間約3000人が失明しています。
網膜症を予防するためには、血糖コントロールを良好にすることが一番大事です。
失明を防ぐためには、ヘモグロビンA1cで6.9%以下にするのが一つの目標です。眼科と内科にきちんと通って治療をしていれば、失明は避けられます。

」は腎症です。糖尿病性腎症は、尿にたんぱくが出てきますので尿検査をしないと分かりません。腎臓の症状は、腎不全になって人工透析が必要となる直前にならないと、むくみ、だるさ、おしっこが出ないといった症状は出ません。
糖尿病の治療効果を上げるためにも、毎月の血液と尿検査が必要です。

発症時期は、神経障害が5年以内、網膜障害が10年以内、腎障害が15年以内と言われています。これも、血糖コントロールによって大きく変わってきます。
コントロールが良ければ三大合併症の「しめじ」は予防できます。

怖い合併症 エ・ノ・キ とは?   血管障害  早い進行
え・・・えそ(壊疽)=下肢閉塞性動脈硬化症
えのき の・・・脳梗塞
き・・・狭心症・急性心筋梗塞

しめじ」は、糖尿病に特有の三大合併症ですが、糖尿病が発症してからゆっくり出現します。
しかし、命に直結する合併症としてもっと怖いのは、「え・の・き」です。わかりやすく言えば、動脈硬化症(大血管障害)です。動脈硬化症は、糖尿病でなくても、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満の人におこりますので、動脈硬化症は糖尿病特有の合併症ではありませんが、糖尿病ではより起こりやすくなります。

」は、えそ(壊疽)のことで、下肢閉塞性動脈硬化症です。足が腐ってしまう病気で、血行障害と神経障害による傷から感染し腐ってしまいます。日本でも、下肢切断の原因で一番多いのは、糖尿病です。この合併症は、動脈硬化症がある程度進行してからの話になります。動脈硬化症は、喫煙でも血管が詰まりやすくなりますので、禁煙も重要です。

」は、脳梗塞です。脳梗塞は、高血圧と糖尿病の人が起こしやすい合併症です。

」の狭心症は胸が痛んだり苦しくなったりする病気ですが、今は急性心筋梗塞も含めて一連の病態として、急性冠症候群(ACS、アキュート・コロナリー・シンドローム)といいます。欧米人だけでなく日本人でも、心臓病を防ぐことが糖尿病の一番の課題になっています。血圧や脂質は、薬で比較的簡単に下げることができますが、ヘモグロビンA1c(HbA1c)を6.9%以下(ヘモグロビンA1c:赤血球の中にあるヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの割合で、過去1~2カ月の平均血糖値を表す指標)に保つのが難しいのは、強い薬を使うと低血糖を起こしてしまうためで、良好に血糖をコントロールすることは難しいようで、糖尿病専門病院を受診している方でも、6.9%以下に保てているのは4~5割といわれています。
低血糖を起こさないように上手に服薬をしつつ、食事療法と運動療法を行なう必要があります。

糖尿病の危険因子

糖尿病は遺伝的な素因から生まれつき糖尿病になりやすい体質の人が様々な誘因によって発病すると考えられています。

肥満

糖尿病を発病する一番の要因。肥満により体脂肪が増えると、増えた脂肪細胞からインスリンの働きを低下させる物質が分泌されます。このため膵臓がインスリンの分泌を増そうとするが膵臓が疲弊してインスリンを分泌しなくなります。

過食

過食によって急激に増えた血液中のブドウ糖を調整するために膵臓がインスリンを懸命に分泌するのですが、過食による高血糖状態がベータ細胞を破壊してしまいインスリンの分泌能力が低下していきます。

ストレス

ストレスを感じると拮抗ホルモンやアドレナリンといったインスリンの作用と対立するホルモンが分泌され、血糖が上昇し糖尿病の発症を増進させてしまいます。

妊娠

妊娠すると胎盤から分泌されるホルモンによってインスリンの働きが妨げられ糖尿病を発病しやすくなります。殆どの場合は出産すると元に戻りますが例外的に戻らない場合もあります。

加齢

加齢によって糖質の利用が減っていき、細胞そのものが老化してしまい膵臓の働きが弱まり食後の血糖値が下がりにくくなります。

糖尿病には4つのタイプがあります

糖尿病は発症原因によって4つのタイプに大別されます。日本人の糖尿病患者の中で最も多いのが2型糖尿病と呼ばれるタイプで全体の約9割を占めます。2型糖尿病は生活習慣病を代表する病気ともいわれています。また糖尿病患者の約5%は1型糖尿病で占められています。

1型糖尿病 膵臓のランゲルハンス島が破壊された結果、インスリンの分泌量が絶対的に不足するのが原因です。
2型糖尿病 インスリンの分泌量が不足したり、分泌のタイミングが遅れたり、インスリン抵抗性のために作用が低下してしまうのが原因ですが、その原因は特定できません。
特定の原因による
その他の糖尿病
何らかの特定されるほかの病気が原因で起こる2次性糖尿病のほかに、遺伝子異常によって起こる糖尿病も含まれます。
妊婦糖尿病 妊娠をきっかけにして発見された糖代謝異常です。

糖尿病患者の9割を占める2型糖尿病とは

糖尿病患者の9割を占める2型糖尿病は、インスリンの分泌が悪く不足がちになったり、インスリンの作用そのものが低下して発症する病気です。
日本人の糖尿病患者の殆どが2型糖尿病で、一般的に糖尿病といえば2型糖尿病を指します。

日本人の2型糖尿病の特徴は、食事をしたあとにみられるインスリン分泌のタイミングが遅れ迅速に行われないことです。インスリンの効き方が悪い(インスリン抵抗性)がみられることもあります。

生活習慣病としての2型糖尿病

2型糖尿病は遺伝の影響が強いことが確認されています。親族に糖尿病の遺伝素因があると2型糖尿病の発病率はそうでない場合の3倍以上高くなります。

遺伝要因だけではなく過食や運動不足、ストレスや加齢なども発病要因となることから、中年以降に多く発症し、肥満症を合併しているのも特徴です。そのため2型糖尿病は生活習慣病として問題視されています。

2型糖尿病に効果のある治療は食事療法・運動療法で改善がなければ薬物療法を行うのが一般的とされています。
中にはインスリン療法やGLP1注射療法が効果がある場合もあります。糖尿病の状態によって、一時的にインスリン療法を行い、経過観察をしながら薬物療法に切り替えていく場合もあります。

  1型糖尿病 2型糖尿病
発症年齢 若年(30歳未満、特に10~18歳)に多い 中高年者(30歳以降、特に40~60歳)に多い
症状のあらわれ方 急激であることが多い 潜在的でゆっくり
肥満傾向(体型) やせていることが多い 肥満型と痩せ型ともにあるが、比較的肥満型が多い
インスリン分泌 欠如または高度の障害 分泌が不十分
近親者の糖尿病 少ない 多い
遺伝関係 薄い 濃厚
原因 膵臓β細胞の自己免疫反応が関与して起こる 遺伝的素質に、食べ過ぎ運動不足肥満、ストレス、妊娠などが誘因になり起こる
糖尿病性昏睡 陥りやすい 陥りにくい
診断のきっかけ のどが乾き、水をたくさん飲み、尿が多く出る、やせる 健康診断や、他の病気で受診したときが多い
治療法 インスリン療法 必ず必要 必要とすることもある
内服療法 無効のことが多い 有効

食事制限で糖尿病患者の8割が改善する

2型糖尿病は暴飲暴食などの食習慣を改善し食事の摂取エネルギーを制限するだけで、8割以上の患者の血糖コントロールが改善できます。食事療法により糖代謝全般が改善され、脂肪細胞や筋肉細胞でインスリンの効果が高まります。

高血糖の状態が続くと全身に倦怠感を伴うので、体力をつけようと過食がちになってしまうのですが、口から摂取した糖分は尿糖となり尿の中に排泄されてしまいます。

血糖が高い数値になると喉の渇きが強くなり、ジュースなどの清涼飲料水を飲んでしまい、清涼飲料水に含まれるブドウ糖で更に血糖値が増えるという悪循環に陥ることもあります。要するに高血糖であることが悪循環を起こす根源になるので、食事療法は、この悪循環の根本を改善するうえで大きな効果が期待できるのです。

食事療法で膵臓に休息を与える

糖尿病患者が暴飲暴食をすると膵臓の負担が急激に高まります。膵臓は血糖値を抑えるためにインスリンを分泌し奮闘しますが、暴飲暴食が長期間におよぶと、膵臓の負担がピークになりインスリンの分泌ができなくなります。食事療法には、過度な負担がかかった膵臓を休めるという役目もあるのです。食事療法によって負担が軽減された膵臓は本来の状態にもどり血糖コントロール機能を取り戻すと、高血糖のときよりもインスリンの分泌が俊敏になります。

食事療法で注意すべきこと

膵臓の負担を軽くし血糖を高めない

糖尿病の食事療法は不足したインスリンの作用に見合った食事を摂ることで膵臓の負担を取り除き血糖を高めないようにし、膵臓本来のちからを呼び戻すことが最大の目的です。

食事療法のルール

1日の摂取エネルギーを守る
栄養バランスのとれたメニューにする
規則正しい食習慣を行う

1日のカロリー(エネルギー)摂取量の目安は?

食事療法の基本的な考え方は、必要以上のカロリーをとらないようにし、膵臓の負担を軽くして働きを回復させたり、インスリンの補給による血糖コントロールを行いやすくすることです。そのため、適切なカロリーの範囲内で、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素をバランスよくとることが大切です。

糖尿病の患者さんが食事からとる適切なエネルギー摂取量は、年齢や性別、身体の大きさ、運動量によって、1人ひとり異なります。
適切なカロリー(エネルギー)量のもとで、食事をしましょう。
なお、エネルギー摂取量は下記の計算式で求められます。

エネルギー摂取量=標準体重1)× 身体活動量2)

1)標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
たとえば、身長160cmの人の標準体重は・・・・1.6×1.6×22=56.32kg
2)身体活動量は体を動かす程度によって決まるエネルギー必要量(kcal/kg標準体重)

身体活動量の目安
軽労作(デスクワークが主な人、主婦など) 25~30kcal/kg標準体重
普通の労作(立ち仕事が多い職業) 30~35kcal/kg標準体重
重い労作(力仕事の多い職業) 35~kcal/kg標準体重 

食事療法に欠かせない食品交換表

糖尿病の食事療法では医師の監修による食品交換表を活用します。
食品交換表は糖尿病のスペシャリストによって作られた食事療法のガイドラインで、誰でも簡単に必要範囲内のエネルギーでバランスのとれた食事ができるよう考案されています。
食品交換表は、エネルギーの最小単位を80kcalとし、各食品が80kcalあたりの重量が表示されているので複雑な計算をすることなく必要エネルギー量に対して料理の食材を選ぶことができます。
また、食品交換表には、バランスの良い食事がとれるように、様々な食材を栄養素の割合によって6つのグループに分けられています。

食品交換表
    水曜日
メニュー名
エネルギー
kcal
糖尿病食品交換表 塩分
g
食物繊維
g
表1 表2 表3 表4 表5 表6 調味料 嗜好品
主食 ご飯(発芽玄米:白米=1:1)150g 250 3.0                 1.3
主菜 落し卵の野菜あんかけ 103     1.0     0.2   0.1 1.5 1.3
副菜 かぶの味噌汁 33           0.1 0.3   1.5 1.9
フルーツ みかん 100g 45   0.5               0.4
デザート チャイ 89       1.1         0.1  
  合計 520 3.0 0.5 1.0 1.1 0.0 0.3 0.3 0.1 3.1 4.9
主食 ご飯(発芽玄米:白米=1:1)180g 300 3.2                 1.5
主菜 豚ときのこのおろし煮 254 0.2   1.9   0.6 0.2   0.1 1.6 2.2
副菜 お浸し(ほうれん草) 21           0.1     0.7 2.0
デザート かぼちゃのくずもち きな粉かけ 88 0.6   0.5             2.4
  合計 663 4.0 0.0 2.4 0.0 0.6 0.3 0.0 0.1 2.3 8.1
主食 ご飯(発芽玄米:白米=1:1)200g 333 4.0                 1.7
主菜 さばの中国煮 150     1.3   0.1 0.1 0.3 0.1 1.2 0.4
副菜 八宝菜 83 0.1   0.5   0.1 0.4     1.6 2.3
副菜 きのこと野菜のピクルス 31         0.2 0.2 0.1   1.0 1.3
  合計 597 4.1 0.0 1.8 0.0 0.4 0.7 0.4 0.1 3.8 5.7
  合計 1780 11.1 0.5 5.2 1.1 1.0 1.3 0.7 0.3 9.2 18.7

運動療法

運動療法は糖尿病治療の基本の1つです。食後の運動により食後高血糖を抑えて血糖コントロールをよくすることや、運動を継続することでインスリンの働きをよくすることが重要な目的です。

また、2型糖尿病患者さんは、脳卒中の発症率や死亡リスクが運動療法により半減することが明らかになっています。
運動により、筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が促進され、血糖値が低下します。さらに、運動を続運動の種類としては、散歩や自転車、水泳といった有酸素運動を中心に、筋トレなどの無酸素運動を適宜組み合わせて行います。

運動はその強さにより、筋肉のエネルギー源が変わります。強さが「中等度」かそれ以下であれば、ブドウ糖と脂肪が利用され、強さが増すにつれ、ブドウ糖の利用率が多くなります。「中等度」の強さの運動とは、自覚的に「きつい」と感じない程度で、運動時の心拍数が1分間100~120拍以内が目安です。ただし、50歳以上の方は100拍以内にします。ウォーキングでは、1回15~30分間、1日2回、1日あたり1万歩をめやすにしましょう。

運動はできれば毎日行うことが基本ですが、少なくとも週に3日以上行いましょう。運動の時間を作るのが難しい場合、特別な運動をせずに、日常生活で体を動かす機会を増やすだけでも、長期間継続すれば効果があります。例えば、1駅手前で降りて歩く、エレベーターを使わずに階段を使うといったことでもかまいません。けると、インスリンの働きがよくなり、血糖コントロールもよくなります。

運動療法

生活習慣病改善の秘訣は「食事」とエクササイズにあり!
健康を取り戻す食生活のルール

メディカルダイエット

薬物療法

糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本です。
しかし、食事療法と運動療法で良好な血糖コントロールが実現できないときは、合併症の発症や進行を抑えるために、薬物療法を開始します。
血糖値を下げる飲み薬のことを『経口血糖降下薬』と呼びます。
経口血糖降下薬には、糖尿病の状態や原因にあわせさまざまな種類があります。

病態に合わせた経口血糖降下薬の選択 血糖降下薬は、ここに効く!
経口糖尿病治療薬一覧表
  種類 作用・服用方法 効果の特徴














スルフォニル尿素薬(SU薬)
グリベンクラミド
グリクラジド
グリメピリド
すい臓のβ細胞に働きかけて、数時間にわたりインスリン分泌をうながし、血糖値を下げます。

服用時間:食前30分前または食後
リスク・副作用:低血糖、体重増加
空腹時の血糖値をよく下げるという特徴があり、経口血糖降下薬で、最も多く使われているお薬です。
患者さんのすい臓に、インスリンを分泌する力がないと効果が期待できません
服用後、食事をとらないと低血糖を起こす可能性があります
インスリン分泌が増え、ブドウ糖を効率よく利用できるようになると体重が増えることがあります。
血糖値を下げる力は最も強い飲み薬ですが、長年(5-10年間以上)飲み続けることで 膵臓(β細胞)のインスリンを作る力が落ちてくることが多く、糖尿病をが悪化させる恐れがあります。他剤に置換えるるか、少量にするか中止したほうが良いでしょう。
速効型インスリン分泌促進薬
ナテグリニド
ミチグリニド
レパグリニド
SU薬と同じように、すい臓のβ細胞に働きかけ、インスリン分泌をうながします。 飲んだあと短時間だけ作用します。

服用時間:食事を始める前5分以内(1日3回)
リスク・副作用:低血糖
食後の血糖値が高い患者さんに適しています。服用後30分以内に効果があらわれるので、食事をとらないと低血糖を起こす可能性があります。
DPP-4阻害薬
シタグリプチン
ビルダグリプチン
アログリプチン
リナグリプチン
テネリグリプチン
アナグリプチン
サキサグリプチン
トレラグリプチン
オマリグリプチン
インスリンの分泌をうながすホルモンであるGLP-1の働きを高めます。GLP-1は、食事をとると小腸から分泌されます。

服用時間:1日1回
リスク・副作用:低血糖、胃腸障害
小腸から分泌されるインクレチンというホルモンに作用する新しいお薬です。血糖値の高いときだけ作用し、インスリン分泌をうながします。DPP-4阻害薬のみの治療では、低血糖を起こしにくく、 SU薬にみられるような体重増加はありません。














ビグアナイド薬
メトホルミン
肝臓で糖をつくる働きを抑え、筋肉などでのブドウ糖の利用をうながし、血糖値を下げます。

服用時間:食後
リスク・副作用:低血糖、胃腸障害、乳酸アシドーシス
SU薬に比べると血糖値を下げる力は弱いのですが、体重が増加しにくいお薬です。
ビグアナイド薬のみの治療では、低血糖を起こす可能性は少ないといわれています。
チアゾリジン薬
ピオグリタゾン
脂肪や筋肉などでインスリンの効きをよくして、血液中のブドウ糖の利用を高めて血糖値を下げます。

服用時間:食後
リスク・副作用:低血糖、むくみ、肝障害、体重増加
インスリン抵抗性改善薬ともいいます。低血糖を起こす可能性が低いお薬です。
患者さんによっては、むくみや体重が増えることがあります。
糖の吸収を抑える薬剤 α-グルコシダーゼ阻害薬
ボグリボース
アカルボース
ミグリトール
小腸でのブドウ糖の分解・吸収を遅らせて、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。

服用時間:食事の直前
リスク・副作用:お腹の張りやおならの増加、低血糖
食前の血糖値はそれほど高くないけれども、食後の血糖値があがりやすい患者さんに適しています
α-グルコシダーゼ阻害薬のみの治療では、低血糖を起こす可能性はとても低いです。しかし、低血糖が起こったときは、必ずブドウ糖をとることが必要です。
糖尿病境界型・予備軍(IGT)の方が服用すると、糖尿病の発症予防に効果があることがわかっており、糖尿病と診断されていなくても保険適応があります。
糖の排泄を促す薬剤 SGLT2阻害薬
イプラグリフロジン
トホグリフロジン
ダパグリフロジン
ルセオグリフロジン
カナグリフロジン
エンパグリフロジン
腎臓にある尿細管からのブドウ糖の再取り込みを押さえ、尿中に糖を排泄しやすくします。
夜間頻尿を避けるため、朝服用
リスク・副作用として脱水・尿路感染症
ビグアナイド系や利尿剤服用の方・高齢者・女性・痩せている方・腎機能が低下している方にはお薦めできません。
平時よりペットボトル1本分の水分摂取が望ましい
配合剤 ピオグリタゾン塩酸塩・グリメピリド配合
インスリンを出す
+効きやすくする
アマリール(SU剤)
アクトス(チアゾリジン)
インスリン抵抗性の改善と分泌促進
リスク・副作用:下痢・むくみ・体重増加・動悸・息切れ
ピオグリタゾン塩酸塩・アログリプチン安息香酸塩配合
インスリンを出す
+効きやすくする
ネシーナ(DPP-4阻害薬)
アクトス(チアゾリジン)
インスリン抵抗性の改善と
高血糖時にインスリン分泌促進
SU剤との併用で低血糖に注意
リスク・副作用:下痢・むくみ・体重増加・動悸・息切れ
ピオグリタゾン塩酸塩・メタホルミン塩酸塩配合
インスリンを出す
+効きやすくする
メトグルコ(ビグアナイド系)
アクトス(チアゾリジン)
インスリン抵抗性の改善
肝臓での糖新生の抑制
腸管からの糖吸収の抑制
リスク・副作用:むくみ・嘔気・腹痛・下痢・乳酸アシドーシス
ビルダグリプチン・メトホルミン塩酸塩配合
インスリンを出す
+効きやすくする
メトグルコ(ビグアナイド系)
ネシーナ(DPP-4阻害薬)
インスリン抵抗性の改善
肝臓での糖新生の抑制
腸管からの糖吸収の抑制
高血糖時にインスリン分泌促進
リスク・副作用:むくみ・嘔気・腹痛・下痢・乳酸アシドーシス
ミチグリニドカルシウム水和物・ボグリボース配合
インスリンを出す
+糖の吸収を抑える
グルファスト(即効型インスリン分泌促進薬)
ン(αグルコシダーゼ阻害薬)
インスリンの分泌促進と腸管からの糖吸収抑制
食事直前5分以内に服用
リスク・副作用:腹部膨満・下痢・放屁
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物・カナグリフロジン水和物配合
インスリンを出す
+糖を排泄
カナグル(SGLT2阻害薬)
テネリア(DPP-4阻害薬)
高血糖時にインスリン分泌促進
過剰な糖の尿中への排泄
リスク・副作用:脱水・頻尿・口喝・尿路感染症
平時よりペットボトル1本分の水分摂取が望ましい

ご留意)他院さまから当院での継続治療をを望まれる方へ(経口糖尿病治療薬の併用につきまして)。
糖尿病治療薬には、その作用点(上記「血糖降下薬は、ここに効く!参照」)から、健康保険上、併用が認められていない組み合わせがあります。
そのため、下記が併用処方されている場合は、どちらか一方の薬剤に統一させて頂く場合がありますので、ご了承ください。
スルホニル尿素(SU)薬と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系薬剤)は、上記のイラストの通り、作用点・機序が類似しているため併用はできません。
肥満傾向の方にインスリン抵抗性改善薬のビグアナイド薬とチアゾリジン薬がインスリンと併用されたり、食後高血糖改善を目的にα-GIが併用されている場合、状況に応じ、その併用 を取りやめる場合があります。

一方、新たに併用が認められた処方があります。

α-グルコシダーゼ阻害薬とビグアナイド系薬剤との併用療法の効能追加が承認されました。
④ α-グルコシダーゼ阻害薬は、糖尿病と診断されていなくても保険適応があります。
以上を下記に図説しました。

血糖降下薬の併用・組合せ

当院での内服治療の方針

当院では、前述の糖尿病の検査結果を踏まえた治療を行っております。

① 食後血糖値が180mg/dl以上のときは

α-GI(アルファーグルコシダーゼ阻害薬)を併用します。
アルファーグルコシダーゼ阻害薬は、小腸で糖質の消化・吸収を遅延し、食後高血糖を改善する薬です。
食事の直前に服用しなければ十分な効果が得られません。
また、腹部の膨満感や放屁といった腹部症状がしばしば見られます。

② インスリン産生指数が0.2ぐらいに低下しているときは

グリニド系薬剤である速効型インスリン分泌促進薬を併用します。
速効型インスリン分泌促進薬は、すい臓β細胞のSU受容体に結合して、インスリンの分泌を促進します。
作用の発現が速く、持続時間も短いのですが、SU薬よりも低血糖が起こりにくい特徴を持っています。

③ インスリン抵抗性(HOMA-R)が大きいとき(1.73以上)はチアリジン(TZD:インスリン抵抗改善薬)を使用します。

インスリン抵抗性を改善する薬で、骨格筋や肝臓でのインスリンへの感受性を改善します。
定期的な肝機能検査が必要であり、むくんだり、心不全の誘発、体重増加などのリスク・副作用に注意して使用します。
注)
メトホルミンは2010年から増量可能となり、1日2250mgまでを使用可能となります。
従来の3倍量です。

④ DPP-4阻害薬

検査値・症状に関わらず、使用可能な新薬が2009年12月に発売されました。
DPP-4阻害薬と呼ばれています。
この薬は、小腸から分泌されるホルモンであるインクレチンを増加させる薬剤です。
インクレチンは血糖値を上げるグルカゴンの放出を抑え、インスリンの分泌を促進させて血糖を下げますが、血糖値が高いときだけ作用するので、原則的に低血糖を起こしません。

⑤ SU(スルフォニル尿素)薬

この薬は、すい臓β細胞に直接作用して、インスリン基礎分泌のみを24時間にわたり刺激します。
したがって空腹時血糖値は低下しますが、食後血糖低下作用は弱く、動脈硬化症を防ぐことはできません。
長時間(8年以上)使用し続けると膵β細胞の疲弊をきたし、一生インスリンを打ち続けなければならなくなります。
現在でも、残念なことに世間一般には最も使用されている薬剤ですが、上記の理由から当院ではこの薬は積極的には使用していません。

糖尿病の治療とは

糖尿病の治療は単に血糖を下げることではありません。
本来の目的は、糖尿病に関連した合併症の発症や進行を阻止し、健康な人と変わらない生活を送ることです。
また、当院のホームページの
サイレントキラー 血圧・糖・脂肪 忍び寄る殺し屋退治はお任せッ!
にもありますように、糖尿病は高血圧・脂質異常症を呼び、また、その治療は、それらの改善にも役立ちます。
このホームページを通じ、ご自分の病気について学ばれ、食事と運動が如何に血糖値に影響するかをご理解頂き、合併症の予防の大切さを知ることは重要です。
糖尿病の治療はあくまでも食事療法と運動療法が柱です。
医師だけでなく、ご家族や栄養士、薬剤師、理学療法士の方々など、多くの方々とともに、積極的に治療に取り組んでいきましょう!

当院には、糖尿病専門医が常勤しておりません(非常勤体制です)ので、インスリン依存型の1型糖尿病の方の治療は致しておりません。
また、インスリン製剤および GLP-1(ジーエルピーワン)受容体作動薬の自己注射の指導も十分ではありませんので、糖尿病治療は主に経口糖尿病薬となりますことをご了承ください。
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